マイクロソフトのOfficeソフト次期版「2007 Microsoft Office system(Office 2007)」における最大の注目株は,ピア・ツー・ピア(P2P)型グループウエアの「Groove 2007」だ。Groove 2007のベータ版を使ってみて,本当にワクワクしてしまった。こんな経験は久しぶりだ。Grooveには,既存の様々なアプリケーションやサービスを置き換える力があると感じている。どんなところにワクワクしたのか,詳しく説明させて頂きたい。

 まずはGrooveの概要を紹介しよう。Grooveは,米Microsoftが2005年に買収した米Groove Networksの製品だ。Grooveの開発者は「Lotus Notes」の開発者として知られるRay Ozzie氏で,Ozzie氏は現在MicrosoftのCTO(最高技術責任者)を務めている。Grooveは「Notesの父」が作ったグループウエアといえる。

 GrooveはP2P型のアーキテクチャを採用しているので,サーバー無しでコラボレーションやファイル共有が可能になる。筆者はGroove 2007のベータ版を使っていて,「Grooveがあればファイル・サーバーやインスタント・メッセンジャーなど,いろいろな既存のアプリケーションやサービスが不要になる」と何度か思った。Grooveの機能については『【どう変わる?Office 2007(7)】Groove編---「Notesの父」が作ったP2P型グループウエア』に詳しく書いたので,今回は「GrooveがITシステムにどんなインパクトを与えるか」という視点で述べたい。

Grooveがあれば「ファイル・サーバー」はいらない

 Grooveには「ファイル共有」という機能があり,これを使うと複数のユーザーでファイルを共有できる。GrooveはP2Pアプリケーションなので,ユーザーのローカル・マシンにある「Groove用の共有フォルダ」にファイルを作成したりコピーしたりすると,そのファイルは「ワークスペース」を共有する他のユーザーに即座に転送される。既存の共有ファイルに更新があった場合は,ファイル全体が再送信されるのではなく,変更された差分だけが送信される仕組みだ。

 筆者はGrooveのファイル共有を使ってみて,「これがあれば下手なファイル・サーバーはいらない」と思った。下手なファイル・サーバーとは,部門で勝手に運用されていて,セキュリティ対策が不十分で,バックアップもされていないようなファイル・サーバーのことである。

 本来であればファイル・サーバーは全社単位で統合し,システム部門が責任を持って管理するのが望ましい。とはいえ部門サーバーが乱立してしまうのは,ユーザー部門の細やかなファイル共有ニーズにシステム部門が対応しきれないからだろう。

 Grooveを使えば,システム部門の手を借りなくても,ユーザーだけで安全に(厳密なアクセス制限をかけた上で)ファイルを共有できる。1つのファイルが複数のマシンに保存されるので,ファイルが消えてしまう危険性も低い。

 またGrooveのファイル共有機能には,ファイルの「未読管理機能」が実装されている(図1)。単純なファイル・サーバーには無い,気の利いた機能である。

図1●Grooveのファイル共有画面。ファイル名の左に表示されているオレンジと黄色のアイコンが「未読」を示している[図のクリックで拡大表示]

Grooveがあれば「インスタント・メッセンジャー」はいらない

 Grooveには,ユーザー間でメッセージをやり取りする機能やチャット機能も実装されている。さらにユーザー・グループ(例えば特定の「ワークスペース」(Grooveの機能)を共有しているユーザー)に対して,一括してメッセージを送ることも可能だ。当然であるが,メッセージの履歴機能(ログ機能)も備えている。

 インスタント・メッセンジャーがメールよりも便利なのは,相手のプレゼンス(オンラインかオフラインか)を把握した上でメッセージが送れる点であり,即座にチャットにつなげられる点だが,Grooveはその両方を備えている。さらに複数のユーザーにメッセージを同時送信できる点や,他のコラボレーション作業につなげられる点が,インスタント・メッセンジャーよりも「業務向き」である。